英国帖|ちっちゃな推しとスモールトーク
ユーロスター、ベルリンのミニカー、シルバニアファミリーと飴ちゃん
5月14日
「ユーロスター」
ヨーロッパには「ユーロスター」という国境を越える高速鉄道がある。Olivia Rodrigo の新曲「drop dead」の歌詞に登場し、その表現の鮮やかさに、やられた。
“Have you ever been to Japan? Or taken that Eurostar to France?”
恋に落ちたばかりの初々しい女の子。彼のことをもっと知りたくて、知りたくて、質問攻めにしたくなる。あの止められない高揚感を、こんなふうに表現できるのか。山田くん、ありったけの座布団もってきて〜!
そんな「ユーロスター」に乗れば、ロンドンから海底トンネルを抜けて、ヨーロッパのさまざまな街へ行くことができる。およそ1時間半でリール、2時間でブリュッセル、2時間半でパリ、3時間でロッテルダム、4時間でアムステルダム。
私の姉家族が暮らすベルギー・ブリュッセルは、ロンドンとたったの2時間で繋がっている。東京から京都に帰省するのとちょうど同じくらいだ。
イギリスに引っ越してからというもの、ベルギーには何度も行った。姉は、夫が出張のたびに、私にヘルプを求めてくれる。でも、本当に助けられていたのは私のほうだった。イギリスでの初めての海外生活、最初の半年間は不安でいっぱいだった。せめて擬似帰省なるものを、とベルギーを訪れては、姉家族に癒された。
まあそんな感じで、基本的に私がヘルプを求めて会いに行くばかりだったのだが、今週末は違う。姉家族がイギリスに遊びにきてくれる。私が溺愛している甥っ子も一緒だ。我が推しに会えるまで、あと2日。
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5月15日
「ベルリンのミニカー」
私はあらゆる分野で、どうしようもなく nerdy だ。特定の人間の「推し」はいない。強いていうなら、甥っ子が推しである。もうすぐ2歳になる推しは、とてもお喋りになった。意思表示もうまくできて、イヤイヤ期っぽい様子があまりない。「ちゅいちゃん、はろー!」とママ(姉)に依頼して、私にテレビ電話をしてくれる。いつか物心ついて「おばさん、うざい」と言われてしまうまでは、思いっきり貢ぎ、思いっきり遊んでいただこう。我が推しに会えるまで、あと1日。
今回もせっせと貢ぎ物を用意する私につられて、私のパートナーまで準備万端だ。わざわざ出張先のベルリンで、フォルクスワーゲンのミニカーを買ってきてくれた。
なんだろう。玄関先で、出張から帰ってきたパートナーが「じゃーん」とミニカーを見せてくれた、あの瞬間のあの感情が忘れられない。愛するひとが、自分のために何かしてくれるのって、もちろん嬉しい。けれども、それ以上に、自分の愛するひとが、自分の愛するもうひとりのために何かしてくれるのって、「とんでもなく」嬉しい。自分の人生ではじめて味わう感情だった。
なんだろう。私たち姉妹が、時折助け合いながらヨーロッパで生き抜く様子を、母が喜んでくれるのって、こういうことだったのかも知れない。
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5月16日
「シルバニアファミリーと飴ちゃん」
それほど楽しみにしていた甥っ子御一行のイギリス訪問だったわけだが、惜しくも姉からの知らせより先に、私は「とあるチケット」を購入済みだった。「ひつじのショーン」で有名な、アードマン・アニメーションズの特別展だ。私もパートナーも、アードマンの大ファンである。残念ながら、チケットを別日に変更することはできない。「ごめん!ひとつ予定があるから、それ以外の時間は一緒に過ごそうね」としょんぼり返信すると、「あ、展示会場 Young V&A やん!特別展は入れなくても常設展だけで大丈夫、一緒に行こう」とのこと。結果オーライ。
お昼どき、姉家族はキングスクロス駅に到着し、予約しておいた駅近くの Lina Stores というイタリアンで待ち合わせ、ランチした。奇遇なことに、今週は義理兄と私のパートナーの誕生日が揃っていたので、再びお祝いした。ふたりの誕生日はまさかの1日ちがい。私は占いを信じるというより、いいとこどりするタイプなのだが、性格も似ている、誕生日も近い、ともなるとつい、占ってしまいそうだ(まだ占っていない)。
ランチのあと、姉には別行動してもらった。せっかくなのでウエストエンドでのミュージカル観劇を勧めて、ひさしぶりの me time を楽しんでもらう。私たちは早速 Young V&A へと向かった。本家のV&Aはキングスクロス駅から向かって西側の、高級エリアにあるけれど、Young V&Aは東側の、ちょっと雑多な下町エリアにあった。ロンドンで暮らして1年ほど経つが、はじめて歩く町はいまだにソワソワしてしまう。スリが怖い上に、この小さな生命体(推し)から目が離せない。絶対に守る。
Young V&A は博物館でありながら、体験型になっていて、親子で楽しめる遊び場、という感じだった。私が初めて甥と遊んだ日がふいに懐かしくなった。子育てって大変なイメージばかりだったけれど、親になるということは、もう一度こどもに戻って遊び直すことでもあるのだと思った。なんたる幸せ。
アードマン展はとてもよかった。作品ができるまでのプロセスを、ひとつずつ丁寧に体験することができた。いま仕事でキャラクターIPのプロジェクトに携わっていることもあり、色々と考えさせられた。3DCGやAIなど、テクノロジーはこれからも果てしなく、容赦なく、発展していくのだろう。時にはあやかって、時にはあらがって、自分の人生をやっていきたいと思う。アードマンにはそんな孤高の強さを感じた。どれだけ時代が進んでも、ひとの体温や感性、美学が、次の世代へ受け継がれていくことを願うし、その一端でありたいと思う。
終わりにショップへ立ち寄り、ここでも可愛いものをゲットする私たち。すると「これ、もしかしてあなたの?」とレジのお姉さんが「シルバニアファミリー」のキーチェーンを手渡してくれた。ひっ。また落としてしまい、また拾ってもらった。
ロンドンでシルバニアファミリーを連れていると、街中で Small Talk をしてもらえる。「かわいい!私もシルバニアファミリー好きよ」「あなた日本人なの?来月大阪に行くの」「それ、私の娘が持ってるのと同じ!日本が大好きで、いま京都に留学しているわ」
意味も結論もないスモールトークで溢れている街が好きだ。小学生の頃、京都の実家から大阪のヤマハ音楽教室へ、初めてひとりで阪急電車に乗った日のことを思い出す。「お嬢ちゃん、ひとり?偉いわねえ」と、飴ちゃんをくれた見知らぬおばちゃん。私もそんな街のおばちゃんでありたい。
いや、訂正。まだまだお姉さんでいさせて!
Yugure
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Twilight Lettersでは、Yugure(ゆうぐれ)が黄昏時のひとりごとを、静かなエッセイとしてお届けします。イギリスでの暮らしや、音楽と広告の仕事で感じたことを、ぽつぽつと。
⚫︎ 2026.5.16 Young V&A にて撮影


